僕には、どうしても理解したくない事がある。
老人用の施設の事なのだが、若者の職業としてどうなのかと考えてしまう。
実際に施設で働く若者から聞いた話だが、他に職がなかったから就いたと言う。
まぁ、たしかに世の中には誰かがやらなければならない仕事があるだろう。
ただ僕が思うのは、若者にやらせてはならない仕事ではないかという事である。
若者には、先々が明るい仕事に就いてもらいたいと思う。
体が弱いとか病気とか、他人の世話をする仕事が必要なのは分かる。
しかし同じ仕事でも、その対象が老人というのが悲しいのだ。
子供、青年が対象となる相手なら、その人らが元気になる姿に希望を見られそうだ。
一方で対象が先の見えてしまった老人なら、どこに希望を見つけたら良いのか?
先にあるのは死だけ・・・
毎日でなくとも、人の死に直面する事が多いはず。
どれだけストレスが生じるか分からないが、若者には過酷だと思う。
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老人ホームの様子を見た事は何度もあるが、僕の印象は刑務所と変わらないと思った。
僕が子供の頃に夕方近く、老人ホームの近くを通りかかった時に聞こえた言葉がある。
「薬を飲んだら、早く寝て寝て!」
夏でまだ陽が高く明るいのに定時なのだろう、決まった時刻に何もかも済ませなければならない。
それが老人ホームなのだなと、僕は子供心に思ったのである。
また、冬のある時に昼間の様子を見た事がある。
南側に面した窓から室内が見えたのだが、畳に座ってじっとしている老人がいた。
布団で寝ている人も見えるが、具合が悪かったのだろうか。
なんとなく穏やかな気もするが、以前に聞いた言葉が頭から消えない。
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何十年か経ち、現代の老人ホームの現場を見る機会があった。
また、老人ホームで働く人の話も聞く事が出来た。
老人ホームには幾つか種類があり、最近僕が見たのは特別養護老人ホームと言うそうだ。
それを略して特養と呼び、その施設ではかなり不自由な生活になるようだ。
たしかに旅館やホテルとは違い、自分の好き勝手な事が出来ないとは思っていた。
しかし、それにしても何事も一律に時間制限なので、不自由過ぎる生活になる。
施設内を歩くにも、介添え無しで一人歩きはさせないようだ。
転んで怪我をしたら大変だという事らしいが、何が大変なのかが問題だ。
現場で働く人から聞くと、どうやら施設の責任問題になる事が大変だというニュアンスである。
老人ホームの入居者の体を案じる事もあるだろうが、どちらかと言うと責任の方を気にかけているようだ。
怪我の責任問題を恐れると、当然ながら介添え無しの歩行をさせる訳がない。
しかもマンパワーが足りないとかで、介添えの余裕がないとか。
すると、入居者を座らせてばかりになり、歩けた人も短期間に歩行困難者になってしまう。
なにしろ老人である、身体能力の低下は著しいのだろう。
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特養に入居すると、早い人では一ヶ月くらいで人相が変わってくると聞いた。
表情がなくなると言うのか、ようするにボケた顔になるそうだ。
なにしろ歩く事も少なく、他に何もさせずに毎日を過ごすのだからボケてくる訳だ。
少しでも歩行が危ういとなれば、すぐに車椅子を使わせてしまう。
こうなると、もう二度と歩行が出来なくなってしまうだろう。
僕は初めに老人ホームが刑務所のようだと言ったが・・・
こうして書いていると、それどころではないと思う気持ちが強くなって来た。
そしてより一層に、若者を働かせてはならないと思った。