1970年代の初め頃の話。
近所に住んでいた一家は家計が苦しく、月に何度かは食べ物に困る日があった。
それを見かねた僕の母は、奥さんや子供を家に招いて、即席ラーメンなどを作っていたようだ。
その奥さんは朝夕に配達の仕事を持っており、夫は隣町の何処かへ労務者として働きに出ていた。
親から受け継いだ小さな家に住み家賃が要らないので、食べるに困る生活にならないはずなのだが。
奥さんから聞いた話では、夫が飲み屋で給料の大半を使ってしまうとか・・・
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ある日、母が豚カツを一枚余分に買って、カツ丼を作って持って行ったそうだ。
カツ丼といってもご飯は無くて、フライパンで豚カツと玉ねぎを煮て玉子とじにした物。
最近ではこれをカツ煮と呼んでいるが、当時はそのような言い方はしていなかった。
だから僕は食堂で、カツ丼の上だけ作って欲しいと頼んだ覚えがある。
母はそのカツ煮を、近所だから器に移さずにフライパンのまま持って行った。
そして受け取った奥さんの言葉にあきれたと言う。
「ああ、これは夫の一回分だ」
「うちの夫は、これくらい一回でぺロリと食べてしまう」
まったく感謝の言葉もなく、いかにも量が少ないと言わんばかり。
母はこの言葉にガッカリして、その後は食べ物を滅多に出さなかったとか。
この奥さんは、普段から何をしても礼を言わなかったらしい。
何かをされてあたり前だと思ってなさそうだけど、良く分からない人だと母が言っていた。