近所に住む
「あきれた人」は、時刻を気にせずやって来る。
そして、自分が飽きるまで帰らない。
さすがに朝に来る事は稀だったそうだが、昼近くや夕方にやって来たという。
その時刻は食事の支度を始める頃で、いちいち話し相手になっていられないのだが・・・
だいいち、自分の家の事はどうなっているのだろうかと、母は不思議がっていた。
今は食事の支度をしているからと言っても、それに返事も返さず。
自分の好き勝手な話を、ペラペラと喋りまくる。
昼は自宅に夫や子供がいないので、食事の用意もしなかったらしい。
そもそもが、喋り好きな横着者と近所では言っていたようだ。
なるほど、その家は整理整頓とは無縁な・・・
玄関に入ってみると、衣服が順番に脱ぎ捨てられていて驚いた。
歩きながら、ぽんぽんと服を脱いで放り投げて奥まで進んだのだろう。
何かの童話ではあるまいし、自分の歩いた道筋の目印かと思ってしまう光景だ。
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なにしろ、この「あきれた人」は帰らない。
母が自分の食事の支度をして、食べ始めようとしても関係なし。
自分は昼抜きだから大丈夫と言うが、そばで話しかけられては食べる事も出来ない。
それでも母はなんとか食べ始めたようだが、とても食べた気にならなかった。
そりゃあたり前だと、誰でも思うはずだ。
昼前から居ついて、やっと帰ったのは午後3時少し前とか。
母は、その方面では気が弱くて、帰れとは言えなかったとの事である。
今の時代と違い、まして田舎では露骨に何かを言う事は出来なかったのも分かるが。
それにしても、ちょっと酷い話ではないだろうか。
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早ければ僕が学校から帰って来るのが午後3時頃で、何度か居ついているところに出くわす。
僕は追い返そうと思い、母にオヤツやら縫い物やらの用事を頼む。
そこでやっと帰る気になるのだが・・・
玄関から出ると立ち止まり、そこで刑事コロンボのように。
奥さん、後一つ良いですか・・・
そのような感じで、また話を持ち出して喋り始める。
これが冬の寒い時期だと、たまったものではない。
外の冷気が家に入り込んで、寒くて寒くて閉口してしてしまう。
僕は家の奥から、まだ出来ないのかと母に声を掛けて助け舟を出す。
その声で、やっと「あきれた人」は帰っていくのであった。
「あきれた人」は、僕の家に限らず近所中でやっていた。
皆はたいそう迷惑がっていたが、やはり母と同様に追い返してはいなかった。
物をねだったりする事はなかったが、他人の都合をまったく考えない人である。
とんでもない人が居たものだと・・・