夕方の4時半ごろ、今日は寒くないので庭に出た。
お決まりのアルミロールテーブルを出し、ウィスキーを飲みながら椅子に腰掛けていた。
いつものように、南の空を見上げると飛行機雲がスーッと伸びてゆく。
ぐんぐん高度を上げて、西に向かって伸びる伸びる。
なぜか飛行機雲の尾はあまり長くなく、後ろからどんどん消えている。
だから、決まった長さの飛行機雲が視界の左から右へ移動するように見えた。
何十キロメートルも遠い空を飛ぶ飛行機は、子供の頃に習った植物の根の先を思い出させる。
植物の成長点の伸びを早送りにしたような感じで、飛行機雲の先端がぐんぐん右に動いてゆく。
そして飛行機雲の尾は、その動きに伴って薄く消えてゆく。
これまでに何度も見た光景だが、いつも虚しさを感じる。
あの飛行機に、誰が乗っているのだろうか。
何処へ行くのだろうか。
いつか帰ってくるのだろうか・・・
遠い国から来た人が、祖国に帰るのだろうか。
この国は良い処だったのか?
なぜか、飛び去る飛行機には自分から離れていく事しか思い浮かばない。
海外へ遊びに行く人の事など、まったく思いもよらない。
こんな時に、死んだ妻は何と言っていただろうか。
「あぁ~、気をつけて行くんだよ」
「遊びすぎて、帰りに遅れないようにねぇ」
なんじゃ、そりゃっ!
せっかく、黄昏をその気で過ごしていたのに・・・
ぶち壊しもいいところだった。
だが今は違う、僕の黄昏を邪魔する者はいない。
この何年間もずっと、自分で思うような黄昏を過ごして来た。
しかし、それも少し飽きてきたような気がする。
つるべ落としの陽が、あっと言う間に辺りを暗くした。
部屋に戻り、相変わらず一人鍋でスキ焼をつついて暇をつぶしている。
明日は土曜日だ、息子は休みだと言っていた。
朝のゴミ出しを手伝わせてやろう・・・