昨日の午後に僕が病院へ来るのを待っていたように、あっけなく母は死んでしまった。
朝から少しずつ容体が悪くなり始め、僕が着くころには危険な状態になっていた。
すでに意識はなくなっているのだろうか、話しかけても返事をしてくれない。
僕が親戚に電話で様子を知らせ戻ってくると、一分間も経たない目の前で急に脈が低下した。
呼吸は続けているが脈が途切れてしまい、ドラマで見る「ピーーー」という状態だ。
少しハァハァとした息遣いであったが、苦しそうではなかったと思う。
僕は母に呼びかける事もなく、傍に立つだけで静かに看取った。
ずっと前から母に言われていた事があり、そのとおりにしたのである。
もしも母が最期になったら大声で呼び戻したり、身体を揺すったりしないで欲しいと。
耳元で大声で叫ばれたらうるさいし、まして体を揺すられるのは堪らないから。
自分は死に際でうるさいと言えないだろうし、騒々しい中で死にたくない。
母を自宅に連れ戻して30分間くらい経ってから、仕事を切り上げた息子が帰って来た。
息子は母の死に顔を見て安らかだと言ながら、母の傍に座り込んでいた。
僕が母の部屋に入ろうとすると、強い口調でちょっと待ってくれと言われた。
暫く経って見た息子の顔は目を赤くして、それでも我慢をしているようだ。
さぁ、今夜は大酒でも飲もうと僕は言って、日付が変わる頃まで飲んだ。